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日本の一人当たりGDPと人件費の推移

前回、日本の年収の推移を国際比較でみてみました。今回は一人当たり名目GDP(購買力平価未調整ベース)の推移もみてみます。

日本の一人当たり名目GDPは1990年代後半から長期低迷

(出所)世界銀行

日本以外の国は、一人当たり名目GDPが順調に増えています。一方、日本は1995年時点では世界3位でしたが、1990年代後半から伸びが停まり長期低迷していることがわかります。2023年時点では、ルクセンブルグ、ノルウェイ、アイルランド、スイス、シンガポールが上位5カ国で、日本はG7諸国で最低、全諸国ではマルタ、クウェート、プエリトリコ(米国領)、バハマ、キプロスに次ぐ大きさとなっています。

企業利益は増えても人件費は1990年代後半以降横ばい

一般に指摘されていることとして、海外進出した日本企業が海外であげた利益を国内に還流していないと言われています。このことは様々な統計から推測できますが、ここでは法人企業統計調査を使ってみました。

(注)全産業、資本金10億円以上、人件費・福利厚生費は従業員給与+従業員賞与+役員給与+役員賞与+福利厚生費 (出所)財務省「法人企業統計調査」

当期純利益は伸びているものの、一人当たりGDPと同様、人件費・福利厚生費も1990年代後半から横ばいになっています。海外子会社や他社からの受取配当は営業外収益、日本企業が支払った配当は配当金に計上されます。これらが2010年以降増えていることがわかります。

海外子会社が日本の親会社へ支払った配当は国内に還流されたといえますが、配当として親会社に払われなかった海外子会社の利益は国内に還流しません。また親会社の配当金は国内に支払われるとは限りません。海外投資家にも支払われます。

以上、統計を確認していくと、企業の利益が国内に還流されていないことがわかりますが、他方で企業の収益力自体は向上していることも指摘されています。しかし、日本企業の収益力は高まったものの、人口減などで国内市場が魅力的でないため収益を国内に還流させない、つまり産業空洞化が進んでいることがわかります。

産業空洞化が進む背景

産業空洞化が進む背景には、様々な点が挙げられます。

企業経営者側の判断

日本企業は近年、グローバルな収益機会を求めて海外事業に注力する傾向があります。かつての日本企業は国内での長期雇用と再投資を重視していましたが、バブル崩壊以降は収益性やコスト効率を求め、低コスト地域への生産拠点移転や海外での研究開発拠点設置、成長著しい海外市場での拡販に重点を置くようになりました。その結果、国内人件費や国内投資に回る資金が縮小し、国内市場向けの新規設備投資や賃金上昇を後回しにする構造が定着しています。

政府の税制優遇策・誘因の不足

国内投資、研究開発、設備投資、人材育成への税控除や補助金など、国内再投資を後押しする政策が十分でない可能性があります。他方、責任の軽い・短時間労働を志向する労働者側のニーズだけでなく、正規雇用者への解雇規制の厳しさが、非正規雇用を増加させる要因になったとの指摘もあります。

労働市場政策と人材環境

日本の労働市場は、正規・非正規の二層構造や年功序列型賃金体系など、独特の慣行が根付いています。企業は非正規雇用者への依存を高めることで、人件費の固定化を避ける傾向が強く、利益が増えても賃金アップに慎重な姿勢を崩しませんでした。さらに、人材育成や労働生産性向上への積極的な投資が不足すれば、国内労働力の生産性は向上しません。労働市場の流動化、スキルアップを後押しする政策、労働組合の交渉力強化などを通じて、企業が国内に投資する動機を生み出すことが求められます。

コーポレートガバナンス改革の影響

日本では近年、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コード導入で、企業に対する株主還元圧力が増しています。株主価値重視は、企業の収益性向上には寄与する一方、余剰資金が国内投資や賃金アップではなく、配当増や自社株買い、海外M&Aなどグローバル展開に回りやすくなる面があります。特に海外投資家が増えると、彼らはグローバル収益機会や配当拡大を求めがちで、国内投資を優先する誘因が弱まります。

国内市場の魅力低下

人口減少や高齢化が進む日本では、将来的な国内需要拡大は期待しづらく、長期的観点から国内に投資する意欲が薄れています。

まとめ

上記の要因は相互に関連しています。政府が海外利益還流への具体的誘因(国内投資に対する税額控除や補助金)、労働生産性向上策、人材育成への支援制度、さらにコーポレートガバナンス改革でのステークホルダー重視の姿勢を明確化するなど、複数の政策手段を組み合わせることで、国内へ利益還流を促す環境整備が必要でしょう。

雇用については、内閣府「平成18年度年次経済財政報告」によると、「90年代後半以降、景気局面に関わらず一貫して正規雇用者が減少する中で、非正規雇用は増加し続けるという動きがみられている。」とあります。日本の長期経済低迷は、企業が非正規雇用への依存を高めて人件費を抑え、労働分配率を低下させたことも一因と言えそうです。

しかし、女性や高齢者の労働供給増加が一巡する今後は、人手不足が加速し、賃金上昇が定着していく可能性があります。このとき企業は、賃金上昇を労働生産性の向上によって吸収できるかが鍵になりそうです。

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