今回は「日本の労働生産性と賃金」について。労働生産性とは何を指し、どのように測定されるか、低いとされる日本の労働生産性を高めることで実質賃金の上昇につながるか、どうすれば労働生産性を上げられるかなどについて整理します。
1. 労働生産性の種類:「一人当たり」と「時間当たり」
労働生産性を示す主な指標には「一人当たり労働生産性」と「時間当たり労働生産性」があります。
- 一人当たり労働生産性
労働者1人が一定期間(例:1年)にどれだけの付加価値を生み出したかを示します。一般的にGDPを就業者数で割ることで算出されます。 - 時間当たり労働生産性
労働者が1時間で生み出す付加価値を示します。労働時間の長短を考慮するため、国際比較ではこちらの指標が用いられることが多いです。日本では労働時間が長いため、「一人当たり」で見ると他国と差が目立ちにくくなります。一般的にGDPを(就業者数✕労働時間)で割ることで算出されます。
2. 労働生産性のデータ:OECDと世界銀行
労働生産性の国際比較データは主に以下の機関から取得できます。
- OECD(経済協力開発機構)
先進国を中心とした統計データを提供し、GDPや労働時間の国際比較が可能です。統計基準の調整が行われているため、先進国間の比較に適しています。 - 世界銀行
新興国や途上国を含む幅広いデータを提供します。ただし、定義や算定基準が異なるため、OECDのデータと数値が異なる場合もあります。
両者のデータは大まかな傾向は一致しますが、分析時には基準の違いを理解し、複数のソースを比較検討することが重要です。
日本生産性本部が上記データを基に「労働生産性の国際比較2024」を作成しています。2023年、日本の時間あたり労働生産性は56.8ドル(GDPは購買力平価でドル換算)、OECD加盟38カ国中29位となっています(概要)。
3. 他国との比較:日本の労働生産性
OECDのデータによると、日本の時間当たり労働生産性は主要先進国と比較して低水準です。特にアメリカや欧州主要国(フランス、イタリアなど)と大きな差があります。その原因として、以下が指摘されています。
- 長時間労働慣行
過度な残業や非効率な会議が時間あたり生産性を低下させています。 - DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れ
ITインフラや業務のデジタル化が遅れている点が課題です。 - 組織文化の非効率性
合理性よりも形式的なプロセスを優先する文化が、イノベーションを阻害しています。 - 産業空洞化
国内の生産活動が海外に移転すると、GDPに計上される国内付加価値が減少しやすくなります。特に労働生産性を算出する際の分子(付加価値)が伸び悩む一因となり得ます。ただし、国内のハイバリューな部門(研究開発や本社機能など)だけが残り、生産性がむしろ向上するケースもあり得ます。また、産業空洞化は日本に限った話でもありません。しかし日本の場合、上記の他要因も重なっているため、海外への生産拠点移転のプラス面よりマイナス面が目立ち、全体として時間当たり労働生産性があまり上がっていないという分析があります。
4. 実質賃金上昇の鍵:労働生産性
賃金は労働生産性の向上を反映して上昇します。企業が高い付加価値を生み出すことで、労働者への分配原資が増えるためです。一方で、生産性の向上を伴わない賃上げは、企業のコスト増を招き、雇用や投資に悪影響を与える可能性があります。持続可能な賃金上昇には、生産性改善が不可欠です。
ただし、長らくデフレが続き賃上げ慣行が凍りついていた日本では、インフレを契機に賃上げから始め、結果として生産性向上努力を促すべきという考え方もあります。
5. 労働生産性の向上方法
生産性向上の具体的な方法には以下が挙げられます(2024年版ものづくり白書等から)。
- DXの推進
ITやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション、人が行う作業の自動化)を活用し、業務を効率化する。 - 人的資本への投資
リスキリングや研修を通じて、付加価値の高い業務へのシフトを促す。 - 働き方改革
成果主義的な雇用形態やジョブ型雇用を導入し、効率的な働き方を実現する。 - イノベーション文化の醸成
トライ&エラーを奨励し、社内外のコラボレーションを通じて新たな価値を創造する。
6. 個人の視点:複数の収入源を持つ
個人レベルでは、収入源を多様化し、それぞれを短時間で高賃金化する働き方が注目されています。例えば、フリーランスやパラレルワーカーとして高い専門性を生かす働き方が増えています。
- スキルの分散投資
複数分野の専門性を高め、多様な案件を受注可能にする。 - 効率的な時間管理
生産性を高めることで、複数の仕事を掛け持ちできる環境を作る。 - リスクヘッジ
一つの収入源に依存しないことで、全体の収入安定性を高める。
まとめ
- 労働生産性は「時間当たり」の指標が国際比較に適している。
- 日本の労働生産性は主要先進国と比較して低い水準にある。
- 賃金上昇には、生産性向上が持続可能な解決策となる。
- DXや人的資本投資、働き方改革が鍵となる。
- 個人としても多様な働き方を模索し、収入源を分散することが重要。
超高齢社会最先進国の日本社会の未来を見据え、企業・経済全体の視点と個人の働き方の両面から生産性向上に取り組むことが重要でしょう。


