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予測できない株価の下での資産形成の方法

予測を諦める「設計」

前回、市場の動きは本質的に予測不可能(ランダムウォーク)であることを確認しました。では、そんな予測不能な市場を相手に、私たちはどうすれば資産を形成していけるのでしょうか。

その答えは、「値動きを予測しようとすること」を諦め、「予測できなくても勝てる仕組み(設計)」を構築することです。

その設計の根幹をなすのが、「長期」「分散」「積立」という、投資の王道とも言われる3つの原則です。これらの原則は、短期的な市場のノイズに惑わされることなく、長期的な期待リターンを享受できる確率を最大限に高めるための、合理的なアプローチなのです。

a. 長期投資:時間が味方してくれる

またサイコロを例に考えてみましょう。出目の平均は3.5ですが、試行回数が少ないうちは結果が大きくばらつきます。しかし、回数を重ねるほど出目の平均は理論値3.5に近づいていきます。投資も同じで、保有期間が長ければ長いほど、一時的な暴落や急騰といったノイズが平準化され、年率リターンが本来の期待リターンに近い値に収束していく可能性が高まります。 もちろん、これは「過去のマイナスを将来のプラスが取り戻してくれる」という帳尻合わせを意味するわけではありません。あくまで、長い時間軸で見れば、マイナスだけでなくプラスのリターンも得られる蓋然性が高まる、ということです。

b. 分散投資:「卵は一つのカゴに盛るな」

「卵は一つのカゴに盛るな」という有名な格言があります。一つのカゴを落としてしまったら、すべての卵が割れてしまうからです。投資も同様に、一つの資産に集中させることは非常に危険です。 分散の対象は多岐にわたります。
• 国/地域: 日本、米国、欧州、新興国など
• 資産クラス: 株式、債券、不動産など
• 業種: IT、金融、ヘルスケア、生活必需品など
• 企業規模: 大型株、中小型株など

このように投資対象を広く多様化させることで、特定の国や業界を襲う不況やショックが、ポートフォリオ全体に与える致命的なダメージを和らげ、リターンを安定させる効果が期待できます。

c. 積立投資:タイミングを気にしない

「いつ買えば一番安いのか」ーーこれはプロでも当てられません。

積立投資は、この最も難しいタイミングの判断を避ける行為です。 毎月1日になど、決まったタイミングで、相場が上がっても下がっても、感情を排してルール通りに淡々と買い続けること。これが、精神的な負担を減らし、長期的な資産形成を成功させます。一般に、投資額を給与天引きすることが推奨されるのには、投資資金の確保のほか、この意味合いもあります。

なお、価格が高いとき少ない数量を買い、安いときたくさん買うことになる、定額投資の重要性が一般に強調されますが、投資額が均等になるようにあえて投資資金を分割する必要はありません。もし、120万円の投資可能資金があったとすれば、それを分割して毎月10万円投資するのではなく、今すぐ120万円を一括投資したほうが運用期間が長くなり、将来のリターンも大きくなります。もし、毎月の収入が定額であれば、その一定割合を投資に向けると毎月の投資額も定額になりますが、結果として定額になるのであって、意図的に定額になるように資金を分割投資する必要なないでしょう。

よくある誤解と、その処方箋

ここまでの話を理解すると、多くの投資家が陥りがちな誤解を避けることができます。

  • ギャンブラーの誤謬:「最近下がったから次は上がるはず」 → 誤りです。前述の通り、株価はランダムウォークであり、過去の動きは未来を保証しません。各時点での値動きは独立した事象です。
  • “高成長国=高リターン”幻想:「成長している国の株を買えば儲かる」 → 誤りです。成長への「期待」は、すでに価格に織り込まれています。期待リターンを決めるのは、あくまでその資産のリスクに見合った上乗せ報酬(リスクプレミアム)です。
  • 株価水準での判断:「今は日経平均が高いから危険/安いからチャンス」 → 本質的ではありません。重要なのは、その価格水準から、将来どれだけの「収益率」が期待できるか、です。
  • 集中投資の過信:「あの銘柄で一攫千金」 → たまたま成功した話は目立ちますが、その裏には数多くの失敗例があります。一つの企業に何か問題が起きた場合、資産の大部分を失うリスクを伴います。
  • コストの軽視:「年率0.5%くらいの違いなら…」 → 長期では大きなコスト差になります。信託報酬や手数料といったコストは、確実にリターンを蝕むマイナス要因です。これが20年、30年と複利で積み重なると、複利効果によって、最終的な資産額に無視できない大きな差を生みます。コストは、投資家が自分でコントロールできる数少ない要素の一つです。

個別株投資の意義

では、インデックスファンドを使った分散投資だけが正解なのでしょうか。個別株投資には、それを上回る可能性と魅力があります。

  • 意義: 市場平均(インデックス)を上回る超過リターンを狙える可能性があります。例えば、これから社会を大きく変えるであろう構造変化や技術革新の波を捉え、その中核となる企業の株に集中投資することで、インデックス投資をはるかに凌ぐ成果を得られるかもしれません。自身の深い分析力や専門知識を活かせる、知的な挑戦でもあります。
  • 注意点: 高いリターンの可能性の裏返しとして、銘柄固有のリスクが非常に大きくなります。予想が外れた場合、市場平均よりもはるかに大きな損失を被る可能性があります。
  • 現実的な戦略:そこで勧められるのが、「コア・サテライト運用」という戦略です。
    o コア(核): 資産の大部分(例えば80〜90%)は、全世界株式インデックスファンドのような低コストで広範に分散された投資で、安定的に市場の平均リターンを狙います。これが資産形成の土台になります。
    o サテライト(衛星): 残りの部分(10〜20%)で、自分の信念や分析に基づいて選んだ個別株や特定のテーマを持つファンドに投資し、超過リターンを狙います。
    この方法なら、ポートフォリオ全体のリスクを抑えつつ、個別株投資の醍醐味を追求することができます。

ここまでのまとめ:水準のブレを受け入れ、収益率を追求する

全体を通じて、株式投資に対する見方を「水準」ではなく「収益率」で考えることの重要性を指摘させて頂きました。

市場は効率的であり、短期的な値動きはランダムで予測不可能です。私たちが目指すべきは、この不確実な市場を予測することではなく、運用のコア部分では、長期的にプラスとなる期待リターンを、できるだけ高い確率で享受するための「仕組み」を構築することです。

その具体的な手法が、長期・分散・積立を三本柱とするインデックス投資です。これが資産形成の土台となります。その上で、もし余力と知見があれば、サテライトとして個別株投資を組み合わせることで、さらなるリターンを目指すことも可能です。

日々の株価の上下(水準のぶれ)に心を乱されることなく、自ら設計したルールに従い、配当やコスト、インフレまでを考慮した「実質収益率」という本質的な指標に着目し続けること。それこそが、予測不能な市場と賢く付き合い、着実に資産を育てていくための王道と言えるでしょう。

サテライトとしての個別株投資は、アクティブ投資と呼ばれる運用スタイルになります(インデックス投資はパッシブ運用と呼ばれます)。個別株投資では投資についてより深い理解が必要となるため、インデックス投資とは別物と考えたほうが良いでしょう(続く)。

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