答え:株式の「持ち分参加」を増やす。
日本企業の多くは海外でも稼いでいます。ところが、その利益がすぐに国内の賃金へとは結びつかない。では私たち家計は、その海外利益にどうアクセスできるのか?
結論はシンプルです。株式を通じて「所有者として参加」する(=持ち分参加)ことが、賃金以外のもう一つの“稼ぐ回路”になります。さらに背景には、キンドルバーガーの発展段階説という国際収支の見方があり、日本のいまを読み解くヒントになります。
なぜ「企業が稼いでも賃金が上がらない」のか
利益が現地に滞留しやすい:海外子会社のもうけは、現地設備拡張やM&Aに再投資されがちです。国内の人件費に直ちには回りません。
株式持ち分構造:日本株の持ち主は、個人・法人・海外投資家です。個人の保有比率が相対的に低いほど、配当や自社株買いの果実は他へ流れます。
日本の国民所得(GNI)は、海外からの投資所得で底上げされますが、その分配が賃金と同じ経路を通るとは限りません。
この構造は一朝一夕に変わりません。だからこそ、家計側から“所有の回路”を太くするアプローチが有効です。
キンドルバーガーの発展段階説とは?
国が発展するにつれて、国際収支の稼ぎ方が変わるという考え方です。ざっくり言えば——
- 未成熟債務国:海外からの資本流入に頼り、利子や配当の支払いが先行。
- 成熟債務国:投資受け入れは続くが、生産力がつき始める段階。
- 若年債権国:対外投資を増やし始め、受取利子・配当が伸びる。
- 成熟債権国:商品貿易が赤字でも、投資所得(第一次所得)やサービス収支の黒字で十分に賄い、なおかつ対外純資産(NIIP)を積み上げる段階。
重要ポイント:貿易赤字=国が貧しくなるとは限らない。投資所得やサービスの黒字が大きければ、国民所得全体は増え得る。
歴史例:英国(19〜20世紀前半)
当時の英国は商品貿易の“目に見える赤字”を、海運・保険・金融などのサービス収支の黒字と、世界各地への対外投資からの利子・配当で上回り、国民所得を拡大しながら対外資産を積み増したと言われます。これは教科書的な「成熟債権国」の姿です。
日本の“現在地”
日本は長らく世界最大級の対外純資産保有国で、近年は第一次所得(投資所得)黒字が経常黒字を牽引しています。年によって貿易は赤字でも、投資所得の黒字が上回るため、経常収支の黒字が続いています。キンドルバーガーの枠組みで見れば、日本も成熟債権国の特徴を帯びています。
とはいえ、国民全員が恩恵を等しく受けるわけではありません。恩恵の分配は「誰がどれだけ所有しているか」に左右されます。
「持ち分参加」を増やすとは?
- 配当・自社株買い・株価上昇のリターンを、家計が直接享受すること。
- 企業が海外で稼いだ利益が、最終的に株主へ還元されるなら、株主であるほど家計の取り分が増える。
- 手段は難しくありません。新NISA等で、長期・分散・低コストの株式投資を続けることです。
投資は短期で利益を狙うものではなく、世界や日本の企業の稼ぐ力全体に、少しずつ持ち分参加するという発想が大切です。
もし「家計の株式保有比率」が上がったら?
家計の日本株保有比率を16.9%(2023年) → 25%に引き上げた場合、家計に帰属するフロー(配当など)がどれくらい増えるかを試算してみました。
- 前提
- 家計株式保有比率:16.9%(2023年)/直近17.3%(2024年)
- 上場企業の2026年3月期配当総額:年間約20兆円(日本経済新聞2025年7月10日)
- 自社株取得枠の設定総額(2024年):約18兆円(日本経済新聞2025年7月3日)
- 試算の考え方
- 増える家計取り分 =(25% − 現在の保有比率)×(配当等の総額)
- 配当と並ぶ株主還元策である自社株買いは「家計が市場平均どおりに売却に応じる」仮定(保守的には“配当のみ”を重視)
結果(年あたり)
家計の株式保有比率8%(17%→25%)上昇の場合:
- 配当のみ(配当総額を20兆円と想定):+約1.6兆円
- 配当+自社株買い(配当総額20兆円+自社株買い18兆円想定):+約3.0兆円
- 世帯当たり:+3兆円÷5万世帯=+約6万円
直感的には、「家計の持ち分が約8ポイント増えると、株主還元の約8%分が余計に家計へ回ってくる」ということ。これが毎年再投資されると、資本所得の基盤が拡大します。しかし、実際にはすべての家計が株式保有しているわけではないので、世帯ごとで資本所得は偏ります。
消費は減らないの?
「収入を株式投資に向けると消費が減るのでは?」という不安もあります。実際には、
- 多くのケースで預金→投資の組み替えが中心と考えられます(消費を直接削らない)。
- 投資からの配当や評価益が広がれば、逆に消費を下支え。
- 投資参加者の多くは限界消費性向が低い層(余裕資金で投資)で、消費の押し下げは限定的になりやすい。
投資拡大が恒常的に消費を弱らせる、という見方は必ずしも当たりません。
生活者として「できること」
- まずは参加率上昇:新NISA等で、世界株インデックス+日本株の“二本柱”を核に。
- 長期・分散・低コスト:手数料は将来リターンを確実に削る“見えないコスト”。低コスト投信中心に。
- 配当の扱いを決める:再投資で複利/一部は生活費へ。ルール化でぶれにくく。
- 家計のバランス:生活防衛資金を確保し、余剰で投資。住宅ローンがある場合、金利次第では繰上げ返済が合理的な場合も。
まとめ
- 賃金所得の一本足打法から、賃金+資本所得の二本足へ。
- 企業が海外で稼ぐ時代に、家計が「所有」で参加することは理にかなっています。
- キンドルバーガーの視点を当てると、貿易赤字でも投資所得で稼げる国は珍しくありません。だからこそ、誰がどれだけ所有しているかが分配のカギ。
- 家計の株式保有比率を高めれば、配当などの取り分が増えていきます。投資は“生活を削って”ではなく、預金の一部を働かせる発想で、長期・分散・低コストを徹底しましょう。


