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時給は上がっても世帯所得は減っていた

前回、毎月勤労統計調査の実質賃金指数の推移と、GDP統計から算出される時間あたり実質賃金の推移に違いがあることを確認しました。

ただし、同調査の実質賃金指数は「1人あたりの月収ベース」で算出されたものです。GDP統計から算出される「時間あたり実質賃金」と公平に比較するには、同調査の実質賃金指数を労働時間あたりに換算する必要があります。

時間あたりではGDP統計と同じ趨勢

前回見たGDP統計から算出した実質賃金は、雇用者全体としての報酬を物価で実質化し、時間あたりで算出したものです。したがって、これは労働時間あたりの実質賃金を示しています。

なお、雇用主の社会保険料負担なども含む「雇用者報酬(GDP統計)」のほうが、「現金給与総額(毎月勤労統計調査)」よりも捕捉範囲が広い点は前回紹介しました。

また、賃金指数(毎月勤労統計調査)は労働者1人あたりの月収ベースで作成されている点も異なります。

公平に比較するためには、賃金指数を労働時間あたりに換算する必要があります。そこで、同調査で公表されている「名目賃金指数」を「総実労働時間」と「消費者物価(持家の帰属家賃除く総合)」で割リ、時間あたり実質賃金指数を計算しました。

グラフ①:時間あたり実質賃金指数

前回みたGDP統計から算出した時間あたり実質賃金と同様の推移をたどっていることがわかります。つまり、2021年度までは「実質賃金は月収ベースでは低下しても、時間当たりでは上昇していた」ことがわかります。

世帯当たり平均所得の動向

ところで、家計の所得が必ずしも一人の労働所得だけによって得られているとは限りません。近年は特に、女性や高齢者の労働参加が多くなっています。そのため、労働者一人あたりの所得だけでなく、世帯全体の所得も確認してみます。

※ここでの所得には、稼働所得、年金・恩給、年金以外の社会保障給付金、その他の所得が含まれます。

厚生労働省「各種世帯の所得等の状況」(2023年調査)によると、全世帯の平均所得は1994年の664.2万円が最高で、最新の2022年では524.2万円となっています。平均所得は名目値ですので、これを消費者物価指数で割って実質化すると、2000年を100とした場合、1994年は109.1、2022年は80.8となります。前回見た実質賃金指数も、1997年と比較すると2022年には約3割低下しています。

高所得世帯の影響により、世帯所得の平均値は中央値より大きくなる傾向がありますが、全体としては世帯所得の推移と(月収ベースの)実質賃金指数の動きは概ね一致していると考えられます。

時給は上がっているのに月収は減っている

ここまででわかったことは、実質で見ても時給は2021年まで上がっていたが、月収は1990年代後半から減り世帯所得も減っているということです。

2021年まで時給は上がっていたのに世帯所得や月収が減っていたということは、労働時間が減ったためということになります。労働時間が減った理由としては、大きく分けて2つ考えられます。

  1. 非正規雇用や女性や高齢者の労働参加が増え、雇用者全体の人数は増えたが総労働時間が減った。
  2. 働き方改革や生産性向上で労働時間が短縮され、総労働時間が減った。

どちらも総労働時間を短縮する結果、企業にとって人件費を減らさないのであれば時給は上がることになります。背景には「人手不足」と「最低賃金上昇」もあったと考えられます。しかし、1はフルタイムより月収やボーナスが少ないため、その割合が大きくなると雇用者全体の平均月収を下げます。

「時間あたり実質賃金」は2022年以降低下が続く

時給は上がっても世帯所得が減っていたということは、時給の上昇度合いが十分でなかったことになります。さらに、2022年以降は「時間あたり実質賃金」も低下しています。月収や世帯所得と同様、時給の上昇も物価の上昇ペースに追いついていないのです。高所得世帯の影響により、世帯所得の平均値は中央値より大きくなる傾向がありますので、中央値付近の一般的な世帯の生活実感はますます厳しくなっていると考えられます。

それまでは「時給は上がっているが、月収が減っていた」ことが課題でしたが、2022年以降は物価高騰により「時給そのものが実質的に目減りしている」という、より深刻な問題に直面していると言えます。

前回紹介したように、実質賃金=労働生産性×労働分配率ですから、右辺のそれぞれについても他の統計ソースと照合しながら個別に確認してみましょう。

次回は労働分配率から。

※補足:例えば2023年度の第一次所得収支(海外証券投資収益、海外直接投資収益、その他所得)約37兆円の黒字のうち再投資収益約12兆円が、また証券投資収益約13兆円の多くが海外で再投資され、国内に還流されていない点も、企業業績が好調である割には国内が潤わない理由に挙げられます。

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