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実質賃金前年比ようやくプラスに

日本は約30年にわたるデフレ状態から、ようやく抜け出しつつあります。しかし、賃金(労働サービスの価格)よりも、他の財やサービスの価格が速く上昇すると、実質賃金が低下し、我々の購買力が減少してしまいます。2022年からの物価上昇局面で実質賃金のマイナスが続いていましたが、直近2024年6月統計で、ようやく賃金が物価の上昇を上回る結果となりました。

物価を動かした三つの大波

日本は約30年間、物価がほとんど動かないデフレ状態が続いていましたが、以下の三つの要因により物価が上昇し、再びデフレに戻ることはないと考えられています。

第一波: コロナ禍で縮小した供給力が完全には回復せず、経済活動再開に伴い需要が急増
第二波: ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰
第三波: 日本の生産年齢人口(15歳から64歳までの年齢層)の減少が、供給力回復の制約要因となる

第一波と第二波は物価上昇の引き金となりましたが、今後、最も影響を与えるのは第三波である人口減少、特に生産年齢人口の減少でしょう。

なお、合計特殊出生率(Total Fertility Rate、TFR)の低下は日本だけで起きている現象ではなく、低TFRが長く続いて人口減少が始まっている国は他にもあります。世界的な物価上昇と日本の賃金上昇は避けられない状況にありますが、物価と賃金の上昇速度次第で実質賃金の動向が決まってきます。

人口動態については、国立社会保障・人口問題研究所、世界銀行のサイトを別の機会に覗いてみることにします。

財・サービスの価格変動はまだら模様

(注)2020年1月の各数値を100に基準化

(データの出所)物価は総務省「消費者物価指数」、賃金指数(従業員5人以上、全産業、全就業形態の所定内給与)は厚生労働省「毎月勤労統計調査」より

上のグラフは、2020年1月の各数値を基準(100)として、「エネルギー」「食料」「教養娯楽サービス」「衣料」「住居」「教育」「情報通信関係費」といった消費者物価指数(CPI)総合を構成する一部の品目の価格動向、さらに賃金指数(従業員5人以上、全産業、全就業形態の所定内給与)を加えて示しています。

消費者物価指数(CPI)総合は、各財・サービス価格の全体的な動きを示しますが、個別に見ると、動きは様々です。

例えば、「食料」は、以前から価格据え置きのまま量を減らすことで実質値上げが行われていましたが、近年では価格そのものの上昇も顕著になっています。

一方、政策によって価格の上昇が抑制されたり、逆に下げられたりしている財・サービスもあります。例えば、2021年の政府による携帯電話料金引き下げ政策によって「情報通信関係費」、また、幼児教育・保育の無償化(2019年)、高等教育の無償化(2020年)によって「教育」の価格が下げられています。「エネルギー」価格も2022年に政府の諸政策により上昇が抑制されています。

これらの各財・サービスの異なる動きや物価全体の動きを渡辺努氏は『物価とは何か』(2022)で蚊柱に喩えていますが、上記グラフでもその様態を確認できます。

賃金の動向と企業コストの課題

2023年には前年比で30年ぶりに3%を超える大幅ベースアップ(平均3.58%)が実現しましたが、賃金指数(所定内給与)はCPIの上昇に追いつかず、実質賃金指数は前年比でマイナスが続いていました。しかし、2024年春闘での前年比平均5.10%の大幅ベースアップを反映し、現時点で直近値である2024年6月になってようやくプラスに転じています。今後も実質賃金のプラスが続くことが期待されます。

しかし、国内企業が原材料や製品を他の企業に販売する際の価格を反映する国内企業物価指数(CGPI)の伸びが再び高まっており(7月前年比3.0%増)、企業のコストも増えています。

(データの出所)CGPIは日本銀行、CPIは総務省

今回のCGPI伸び率の再上昇は、賃上げの影響に加え、輸入物価の上昇(7月前年比10.8%増)も影響しています。CGPIが上昇すると、企業がコスト増を消費財価格に転嫁する可能性が高まり、CPIの上昇も続くでしょう(7月前年比2.7%増)。

したがって、実質賃金伸び率のプラスを維持できるかどうかは、賃上げを消費者物価の伸びが上回らないことが必要条件です。そのためには、円安が大幅に進まないことも必要です。

もし円安が進むと日本企業の海外子会社の円換算利益増を通じて株価は上昇するかもしれませんが、我々の実質賃金は減ってしまう可能性があります。円安のリスクをヘッジしたいなら、我々はどうすべきか。賢明な資産運用です。しかし、実質賃金の減少分を資産運用で補うのは容易でないことも明らかです。

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